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2018-11-22 14:04:14
【泣ける住宅購入】ベテラン営業マンでも悩まされることはある
トラブル多発の物件販売。
売主に不信感を抱きながらもマイホームを手に入れるために
忍耐強く耐え続けたお客様とベテラン営業マンのお話。




青天の霹靂だった。

「お客様の個人情報を見せてくれ。じゃないと契約できないなあ。」

契約を明日に控えた夕方、売主の担当営業は電話で私に伝えてきた。あまりにも急すぎると必死に抵抗したものの人気物件を盾にその強気の姿勢を崩さなかった。

今から10年以上前、創成期のフラット35は認知された住宅ローンではなかった。現在はもちろんそのようなことはないが、当時は住宅ローンの審査に通っても“フラット35の客かぁ・・・”と物件の売買契約に難色を示す売主もいた。

契約を間近に控えた物件は、基礎工事を終えたばかりの段階で全20棟のうち8割近くの売却が決まるほど人気の高い分譲物件だった。だからこそ売主も強気だったのかもしれない。私は不服を押し堪え、お客様に売主の意向を伝えるしかできなかった。

「急ですね・・・。」

さすがにお客様も不快感を示した。それでも夢のマイホームを目前にしたご主人は、売主との約束の時間までに開示資料を用意することを受け入れ、翌朝の仕事をキャンセルしてまで都心部へ取りに行ってくださった。その甲斐あって、契約を無事に終えることができた。



引き渡しを間近に控え、売主と私も立ち会ったお客様による物件の最終チェックで問題は起こった。

玄関の収納扉のネジの緩み・内装クロスのズレなど誰の目にも必要と思われるものからはじまった修繕箇所の指摘は次第に微細なものへと移っていき、アルミサッシの微かなスリ傷やパッキンのわずかな浮きなど、売主の担当営業がメモした数は50以上になった。その数に私も驚いたが、お客様が細かい指摘をする原因があったことも私は知っていた。

「引き渡しまでに、完璧に、修繕・・・。ちゃんとしてくれよ・・・。」

お客様の言葉が室内に重く響いた。契約を終えたあと、お客様が建築現場を見学に訪れたところ、吸殻や飲み干された缶コーヒーが無造作に放置されていたことがあり、注意するよう言い渡されていた。さらには愚痴やクレームを2時間にわたって聞かされたこともあった。そんなことが細かい修繕箇所の指摘につながったのだろう。

やっと見つけ出した理想のマイホームがあと少しでお客様のものになる。そんなタイミングでの私の主な仕事は、売主様への不信感が今にも爆発しそうなお客様のガス抜きだった。



お客様に不信感を抱かせてしまった売主の担当営業もそれはそれで大変だったようだ。50箇所以上にも及ぶ修繕は、担当営業も呆れ果てたに違いない。

「できることは自分でもやりますよ。」

引き渡しまでに修繕すると断言した担当営業は、リペア業者さんと一緒に汗を流した。

引き渡しまであとわずかという頃、私は体調の異変を感じていた。今までに感じたことのない腹部の痛みを感じ病院を受診すると急性胃潰瘍と診断された。自分が想像する以上に心的ストレスを溜め込んでしまっていたようで、長く不動産仲介の仕事に携わってきたが、自分がストレスで悩まされるとは思ってもいなかった。それでも営業としてお客様のすべてを受け止めた“報い”は、時を経て実を結ぶことになった。



引越しからしばらくして落ち着いた頃、お客様から電話が入った。

(また何かあったのだろうか・・・。)

その時にはもう胃潰瘍の状態も良くなっていたが、このお客様からの電話は少しだけ敏感になってしまう。

「紹介したい人がいるんだ。一度、話を聞いてやってくれないか?」

当時の住宅ローンは個人事業者への融資は現在よりも軽視されていたが、トラックドライバーでも住宅ローンが組めたことを自慢したお客様は、同じようにマイホームを探していた同業者の知人をご紹介してくださった。

「トラックドライバーに家を買わせてくれる不動産屋なんて、いないからな。」

電話越しではあったがお客様の笑う声が聞けたのは、この時がはじめてだった。


貴重な実績と経験


ご紹介いただいた新しいお客様にもマイホームを購入していただくことができた。さらにもうひとりご紹介いただき、そのお客様にもマイホームをご提供することができた。

苦労から逃げずお客様に誠意を持って応対した結果は、営業としてとても大きな実績と経験をもたらしてくれた。ただ、あの苦痛はもう二度と味わいたくない。