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2018-11-15 14:38:10
【泣ける住宅購入】ニュータウン築30年の中古物件 高齢のご夫婦と若い家族
愛する家を売却する“東京のお母さん”と住環境に悩まされ続け購入を決意するご家族。
中古物件を取り巻くそれぞれの思いをつないだ新人営業のお話




私の初契約となったお客様は、ご子息・ご息女ともに独立した生活を送っている高齢のご夫婦。テニスを趣味にするほどアクティブな奥様だったが、ご主人の体調は芳しくなかった。心配するご子息・ご息女の勧めで都内にマンションを購入していただき、住居の売却も担当することになった。

その物件は80年代にニュータウンとして開発された分譲地にあり、都心から電車で1時間、さらに公共交通機関を乗り継ぐ必要があった。

「やっぱり愛着が強いのよ。」

そう話す奥様は、何度も足を運ぶ私を温かくもてなし、「若い娘は肉よね」と手作りハンバーグをたびたび振舞ってくれた。

もうひとり娘が増えたみたいと話す奥様がとても楽しそうで、実家から離れて生活する新人の私は“東京のお母さん”のように慕った。

大事なお客様からお預かりした物件は、オレンジ屋根瓦に洋風建築のおしゃれな外観。でも、築30年の物件は各所に修繕の必要性を感じさせた。

「大変なことになりそうだな。」

サポートしてくれた上司の言葉は、現実になってしまう。



自分の足だけでなく業者も使い、近隣から広域へ徐々にポスティングのエリアを広げて配布したチラシの総数が5万枚を超えた頃、やっと一本の電話が女性から入った。

「チラシの物件が気になるんですけど、場所はどこですか?」

住所を伝えると“あそこね”といった感じで、私が心配していた立地を気にする素振りはなかった。そして、小さな子供がいる家族の木造集合住宅ならではの苦悩を打ち明けた。

「小さくてもいいから子供がのびのび暮らせる一戸建てに住み替えたくって・・・。」

住宅建築に関わる職人のご主人は相応の収入はあるが、独立直後では住宅ローンの審査が通らなかったり、いい条件のローンが組めなかったりすることをお伝えした。それでも家を見たいと意思は強く、翌日現地で会う約束をして電話を切った。

待ち合わせの時間に、歩くのが楽しくてしょうがないといった様子の小さな息子さんとご夫婦がやってきた。

「思っていたよりオシャレで綺麗。」

外観の印象を語った奥様に対して、壁や基礎を丁寧に見て回るご主人の姿は職人さんそのものだった。ひと通り外装の確認を終えて物件の中に入ると、ガランとした室内には最近まで生活していた雰囲気が漂っていた。奥様はそれを感じ取ったようで遠慮気味に見学し、楽しそうに歩き回る息子さんのパタパタという足音が部屋に響いた。

ご主人はくまなく丁寧に確認していた。掌全体で壁や柱に触れたり押したり、床や階段では体重をかけて踏み込んでみたりと奥様と違った視点で物件をチェックした。

見学を終えたご主人は、フローリング、クロス、水周りなどいくつかの修繕箇所を指摘した。それでも基礎や構造はしっかりしているので、修繕すれば十分住み続けられると評価した。

「でも、相当手間かかりそうだなぁ・・・。」

ご主人が見積もった修繕費用とその中古物件の販売価格を合わせると、同じ地域の新築物件に手が届きそうなものだった。広めの駐車場や環境には評価が高かったが、結論は先送りになった。

その日の出来事を売主様の“東京のお母さん”にすぐ報告をした。強い愛情が込められた販売価格が障壁になっていることをお伝えすると“東京のお母さん”は言葉が続かなくなった。



それから2ヶ月、ご夫婦に戸建てやマンションの中古物件を提案し続け、“東京のお母さん”の物件は問い合わせも入らなかった。停滞した状況から抜け出すため、上司と私は“納得していただこう”と動いた。

「愛着を持って新しい家族が住んでくれるなら・・・。」

いろんな物件を紹介したが“あの物件の方が・・・”と常に気にかけるご夫婦のエピソードや上司の言葉に諭された“東京のお母さん”は、販売価格の見直しに応じてくださった。

すぐさまそのことを奥様に電話で報告した。

「本当ですか!?すぐ主人に伝えます。」

ひそひそ声ではあったが、ひとつひとつがハッキリ聞き取れるほど歯切れのよい言葉に奥様の喜びが伝わってきた。

電話の話し声や子供の足音さえ隣人に気を使っていたご夫婦が、ぎちぎちに縛られた生活からの解放が決まった瞬間だった。


お祝いエピソード


後日伺うと、知人に依頼すると言っていたクロスの張替えやユニットバスの交換などが綺麗に仕上がっていた。ご主人自身が修繕したことを奥様から聞き、その完成度に驚かされた。

「最初に見学したときに息子がはしゃぐ姿を見て、もう我慢させたくないって強く思ったんです。」

そんなエピソードも“東京のお母さん”に報告した。

「いい人に住んでもらえそうね。お祝いしなくちゃ。」

その晩の“東京のお母さん”は、いつもより大きな手作りハンバーグをご馳走してくれた。