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2017-11-30 12:24:16
物件に惚れ込み、「仲介を任せてほしい」と売主様に必死の猛アピール。
魅惑の物件に恋心を抱き、売主様を口説き落とした営業のお話。




「今度ね、この近くにおもしろい物件を計画しているんだよ。」

ある物件の引き渡しが終わった後、そう売主様の担当者から聞かされた。遊歩道が整備された河川敷沿いに庭付きの物件を3棟計画しているという。
日当たりや眺めも良く、おそらく最高の立地だろう。こんな物件、このエリアで見たことも聞いたこともない。

「ハウスプラザに・・・いや、私に仲介させてください!」

思わず口にしてしまったが、その物件はまだ計画段階だ。それでも想像するだけでワクワクする。
“自分の手で販売してみたい”と感じさせてくれる物件はそうそうあるものではない。

不動産営業として、お客様の目線で物件を見たり条件に合う物件を探したりと常にお客様にとってのベストを尽くしているが、はじめて惚れてしまうほどの物件に出会えたような気がしてならなかった。そんな思いは日増しに強くなっていく。


まだ着工どころか施工スケジュールも明らかになっていないその惚れた物件。当然、明確な返事がもらえないことを解っていながらも売主様の担当者へアピールを開始した。

(とにかく任せて欲しい想いを伝えなくては・・・)

黙って待つことができなかった私は、毎日でも売主様の担当者に連絡を入れたかった。とはいえ、行きすぎは迷惑だし逆効果になる。多くても週に1回と我慢し、熱いアピールを続けた。

プロの仲介業者である私がそこまで魅力を感じているならば、同じように魅力を感じている同業者がいてもおかしくない。そう思うと、焦りが出てくる。

(他の仲介会社に取られたくない。自分が扱うんだ!)

必死のアピールを続けた結果、その努力がついに実を結ぶ。

「仲介、よろしく頼みます。」

売主様の担当者から電話でそう伝えられたのは、最初に物件の計画を聞かされてから3ヶ月を過ぎた頃。現場では、すでに基礎工事が始まっていた。

「仲介をお願いすることに、社内でもいろんな意見があったんですよ。」

私をはじめ他の仲介業者が熱心だったが故に“仲介せずに直接販売できる物件”と考えた方も社内にいたらしい。それでも一番熱心だったという私を選んでくれた。

「ありがとうございます。私が責任を持って全棟完売します!」

担当者からの電話を切った後、なんとも表現しがたい充足感と大きなものを背負った責任感でちょっと身体がシビれた。
それは、少し恋愛と似ているような感じで、とても心地よいものだった。


“惚れ込んだ物件”をやっと販売できる。ネットに物件情報を公開すると、非常に多くの反響が寄せられた。
それは私も予想していたとはいえ、とても私だけで対応できる数ではなく、現地販売会では後輩に手伝ってもらう必要があるほどだった。

基礎が完成したばかりの状態で現地販売会を実施すると、全3棟に対してお客様はひっきりなしにやってきた。
河川敷の遊歩道を散策したお子様連れのお客様からは、その環境の素晴らしさも高く評価された。

「河川敷が整備されて、すいぶん綺麗に変わったなぁ。」

そう感想をもらしたお客様は、近所で生まれ育ったという30代後半のご主人だった。


近所に実家があり、掲げていた看板を見たご両親から“近所では見たことがない庭付きのいい物件が売りに出る”と教えてもらったという。

ふたりのお子様が小学校に入るまでに新居を決めたいと思っていたお客様にとっては、最高のタイミングだった。
お客様はご夫婦共働きであり、ご主人の実家が近所にあるというのは何かと助かることも多いという。

「30年くらい前かなぁ。私が子供の頃は、河川敷と言ってもここらはコンクリ固めで。そんな場所に遊歩道ができて、庭付きの素敵な家が建つんなんて。
この庭で子ども達が駆けっこして成長していくと思うと、今からワクワクしますよ。」

物件も環境もすべてが気に入ったというお客様は、すでにそこでの生活をイメージしていた。

「ちょっと歩けば、小さいけど花火も見えますしね。これからは、子供たちを連れて見に行こうかな。」

花火が見えるという方向を指さしながら、お客様は当時を懐かしそうに振り返っていた。

お客様も惚れてくれた物件

惚れ込んだ物件は、あっという間に全棟完売することができた。その中には、懐かしそうに花火が見える場所を教えてくれたご家族も含まれている。

何よりも嬉しかったのは、私が惚れ込んだ物件のポイントに、お客様も共感してくれたことだ。お客様にはもちろん、こんないい物件を扱わせてくれた売主様に感謝している。ただし、ひとつだけ後悔していることもある。

(自分が住みたかったな・・・)

2017-11-21 14:22:38
苦しい家計を乗り越えるために家探しをはじめた奥様。
奥様に全幅の信頼を寄せる寡黙なご主人。
互いを思いやる夫婦の強い絆を垣間見た営業のお話。




「今から見られますか?」

物件に掲げた看板を見たという女性からの電話を受け、私は現場に向かった。
待っていたのは電話をしてきた女性とご主人、小さな男の子。
挨拶を早々に済ませ、3人を物件の中に案内した。

細かく尋ねてきたのは女性だ。新居探しとなれば明るい未来を描き多少の浮つきを感じるものだが、そうではなく慎重さと冷静さを強く感じた。
一方でご主人は表情ひとつ変えず、無言で奥様の後ろをついて回るといった感じだ。

「うちの主人、町工場の職人なんです。」

奥様から教えて貰い、寡黙なご主人に納得した。表情を変えないもうひとつの理由も話してくれた。

「今のアパートでも十分だと言うんです。それに『自分たちに家が買えるわけがない』と諦めもあって。」

はじめてお会いした日。私と会話したのは主に奥様で、ご主人と交わした言葉はなかった。


初めに訪れた物件は、お客様の条件から外れていたため、他の物件を求めて来店されたり物件を巡ったりする日々が続き1ヶ月ほど経過した。

商談の中心は変わらず奥様。ご主人も変わらず寡黙だ。
しかし、1ヶ月も過ぎると少し気がかりなこともあった。見学中は饒舌な奥様が、契約や資金繰りの話になると歯切れが悪くなる様子に違和感を覚えた。

ある日、次回の物件探しで奥様に電話すると、打ち明けたいことがあるという。
それも“ご主人にはまだ秘密に”という。

「子供が産まれるまで正社員として働いていたんですが、出産でやむなく退職しました。そうなると主人の稼ぎだけでは家計が回らなくなり、悩んだ末に・・・」

金融機関から借り入れがあること、ご主人の収入とわずかながらのパートの収入で家計をやり繰りしていることを告白してくれた。
高い賃貸料を払い続けるよりも思い切って家を購入すれば家計がラクになると思い、物件探しをはじめたことを明かしてくれた。

奥様の言っている“家計のため”が本当で、個人的な趣味や嗜好に興じてしまった結果のものではないことは、何度もお会いしていた私には容易に理解できた。
ご主人に心配をかけまいとする奥様。私は力になりたいと心から思った。

「最適なお住まいと住宅ローンを探し出しますから安心してください。」

秘密を打ち明けられ、うれしかった。しかし、ご主人に隠し続けるため言葉の端々に気を使うなど、とても気疲れするものとなった。


条件が明確になり物件は探しやすくなったが、条件が厳しくなった物件を見つけ出すことは簡単ではない。
しばらくして、ようやくお客様の条件にピッタリな物件が現れた。
建築は終わったが、買い手が現れず販売価格を下げる物件があると売主様から連絡が入った。

(この物件なら、資金繰りもなんとかなる!)

そう判断した私は、すぐさま奥様に連絡を入れ、その週末に物件を紹介した。

「うんうん。素敵。いいと思うよね?」

努めて明るくご主人の同意を促すような奥様の言葉。きっと心の中に一筋の光が差すと同時に、大きな壁が現れたに違いない。
ローン審査の際に奥様が隠していた秘密をご主人に明かさなくてはならないからだ。


物件は決まった。ローンを組む金融機関も見つけた。
ご主人は資金繰りの資料から目をそらさずじっと見続けた。
真実の家計を知ったご主人の頭の中にはいろんなことが駆け巡ったに違いない。
隣でじっと見つめている奥様に「これなに?」と問い詰めることもできただろう。

同じような状況で、口論をはじめたご夫婦を何度も見てきた。商談がなくなるだけでなく、夫婦間の問題になったこともある。

それでもご主人は、溜め息ひとつ漏らすことなく微動だにしなかった。

「わかりました。」

いつもの寡黙なご主人だ。奥様に全幅の信頼を寄せているのだろう。私の目に映ったご主人は、家族を優しく強く見守る大きな存在だった。


引き渡しの日。新居の証である鍵を手渡した先は、商談の中心だった奥様ではなく家長のご主人だ。
直立不動で受け取った鍵を握りしめると、ほんの数センチ私との距離を縮めた。

「素敵な家が買えました。」

私の目をしっかり見てそう言うと、恐縮するほど深々としたお辞儀をした。
半歩下がった奥様もご主人の深々としたそれに合わせた。ご主人は、そのままの姿勢で続けた。

「本当にありがとうございました。」

しばらく返す言葉が見つからないほど、ご主人の潔さに圧倒された。

偶然の再会

後日、ファミリーレストランで偶然再会した。
家族3人が楽しんでいる時間を邪魔しては悪いと思った私が軽く会釈するとご主人も呼応するように会釈を返してくれた。奥様がすっと立ち上がると私に近寄ってきた。

「正社員で働けることになりました。」

そのお祝いで久しぶりの外食を楽しんでいるという。言い出したのは、きっと寡黙なご主人だろう。

2017-11-14 09:49:06
マイホーム購入は人生で大きな決断。
焦らずにお客様との縁を大切に。
持ち前の忍耐力で契約に繋げた営業のお話です。




私の強みは忍耐力。前職で培った“飛び込み営業”を自ら実行するスタイルを得意としている。
ハウスプラザに転職してはや2ヶ月経つが思うように営業成績が伸びないので、自ら飛び込み営業に向かった。
何軒も何軒もお宅のインターフォンを押しては門前払い。
意気消沈しかけながらも、めげずに最後、あるお宅で物件資料を渡すことができた。
この出会いが自分にとって忘れられないものになるとは、この時つゆほども思わなかった。

それから2ヶ月、同じルートを粘り強く飛び込み営業をするも思うように契約が取れず焦りの感情が芽生えてきた。
今日も見覚えのあるお宅のインターフォンを押す。
「あ、この間の不動産屋さんだね。ちょっと待ってね。」
と旦那様が玄関のドアをあっさりと開けてくれたので拍子抜けしてしまったが、
そこは2ヶ月前に唯一、資料を受け取ってくれたあのお宅だった。
その後、玄関先で挨拶だけ交わし数分でその場を離れたが、自分は多少の手応えを感じていた。
数回訪問を重ねた末に、ちょっとした顔見知りにもなり信頼を寄せてくれていたようで、ある日ご自宅に上がらせてくれた。
そこで、ご夫婦はいつかマイホームを持ちたいと思っていたことも打ち明けてくださり、条件を聞きそれに合う物件をご案内することになった。

数回、戸建てをご案内したが、最終決断にはなかなか至らない。
(なぜだろう?実は買う気がないのかな?)
そんな疑問を胸に、お客さまの家に出向いてみることにした。
雑談を交えながらお話を聞いていると、どうやら奥様は戸建ではなくマンションを希望していることがわかった。
懸命に物件を探している私になかなか言い出せなかった、とのこと。急いで会社に戻り条件に合った中古マンションを二つ選んだ。

その資料を持参し再度お客様の家に伺い、膝を突き合わせながら話をする。
私も遠慮して欲しくなかったので、なるべくリラックスできる雰囲気作りをし、何でも話をして下さい、と伝えた。
すると旦那様が前のめりになって
「この物件は、今日見せてもらえるんだよね?」
私は急いで売主様に内覧の確認をして何とか当日中に二つのマンションのご案内を取り次いだ。
一軒目は、築年数は浅く外観はとても綺麗。設備も充実していて、内装もスタイリッシュな物件だ。
(ここなら絶対に気に入ってくれるはず!)
内心そう思っていたが予想とは裏腹にご夫婦は
「素敵ね…」「うーん、そうだね」
と煮え切らないような印象だったので足早に次の物件へ。
二軒目は、設備は質素だが和室があり、アットホームな雰囲気の物件だ。
その一室に入ると、奥様が明るい声色で
「わあ!素敵ね!飾りっ気のない雰囲気が落ち着くわ。」
旦那様も物件をしみじみと見渡しながら
「おお、いいね。まるでずっと自分が住んでいたみたいな感覚だな。」
と笑っていた。私は黙ってご夫婦の姿を見守っていた。
旦那様は言葉を選びながら慎重な口調で
「この物件を買いたいんだけどさ、少しクールダウンの時間をくれるかな?」
通常なら早急に回答をいただきたかったが、気が付けば最初に訪問してから4ヶ月以上のお付き合いになる。自分にとって大切な家族のような存在にもなっていたので
「大事な決断なので、ゆっくり時間を掛けて考えてください!」と答えた。
ご夫婦に安堵の色が見えた。きっと私に気を使ってくれていたんだろう。

翌日、出社すると私宛に電話があった。

「あの物件にするよ。気長にお付き合い頂いたおかげで良い買い物が出来そうだ。本当にありがとう。」
契約よりもなによりも『ありがとう』の言葉が嬉しかった。

無事に引き渡しの日、奥様が改まった口調で声を掛けてくれた。
「あなたのような温かい人柄の方から買えて本当によかった、ありがとうね」
この一言をいただいた時、長い道のりだったがひとつの大きな仕事をやり遂げた気がした。

長い年月が経って、また“頼りに”してもらえた

あれから7年もの年月が経った。私は、今も変わらずお客様の目線でマイホームを紹介する日々を送っている。そんなある日、携帯電話が鳴った。
「久しぶりだね。実は家族が増えたのであのマンションを売って戸建に住み替えをしたいんだ。大きな決断だからこそ、やっぱり一番信頼しているあなたにお願いしたくてね。」
その声は懐かしくそして絶対に忘れられない声だった。
長い時間がたっても私を忘れずにいて頼ってもらえた。
言葉にならない感情がこみあげてきた。
間髪入れずに「おまかせください!」と口をついて出た。
「ありがとう、また前みたい気長に頼みます。」

2017-11-07 10:44:34
“デメリット”と“メリット”を明確に説明。
一人ひとりのお客様に丁寧に向き合っていた営業が思いがけないアクシデントに直面。
それを乗り越えて契約に繋げた営業のお話です。




私はお客様に物件資料をお渡しするときに必ずその物件の“メリット”と“デメリット”を自分なりの言葉で記入する。いわば、『私オリジナル資料』だ。
売って終わりではないからこそ、“デメリット”を事前に伝えるべきで、この仕事の原理原則だと考えている。

そんなある日、お客様から物件情報の詳しい資料を持ってきて欲しいと連絡を頂いた。いつも通りに物件の『私オリジナル資料』をお客様のお宅のポストに投函しに行った。そのポストには他社から取り寄せたと思しき資料が溢れんばかりに入っていて、マイホーム探しに精力的な姿勢がうかがえた。

翌週、そのお客様から電話があった。
「家内と一緒に拝見しまして、出来れば今週中に内覧をさせていただきたいんですが。」
こうして、お客様を現地にご案内することになった。

当日、お客様をお連れして物件に向かった。
落ち着いた紳士風の旦那様と、優しそうな人柄が滲み出ている奥様。現地でご夫婦は談笑しながら丁寧に部屋を見て回っていた。頃合いを見て私は
「長い期間マイホームを探されているんですか?」
と尋ねると、旦那様が
「そうですね、もう何軒目になるかな・・・。そうそう、あなたが資料に書いてくれた物件の良い点と悪い点、とても参考になったよ。他社の資料にはそんなこと書いて無かったから、ハウスプラザさんにお願いしたくてね。」
奥様も
「そうなのよね、私たちは素人だから知らないことばかりで。デメリットを事前に知っておけて参考になりました。」
そんなお話を聞いてその日の内覧を終えた。

お客様の希望で、翌週、翌々週も別の物件の案内をし、その頃にはご夫婦との距離感もだいぶ縮まったように感じた。

ある日、物件の内覧したあと、旦那様がおもむろに
「やっぱり、いちばん最初にみた物件が気に入ったな。何よりも周辺の街並みが自分の生まれ故郷にどことなく似ていてね。懐かしい気持ちになったんだよ。」
その一言で、最初の物件でお申し込みを頂くこととなった。その場で売主様に電話を入れ確認をすると、価格の件で思いがけない事実が。
「その価格は今月限りのキャンペーン価格で、決済が翌月となると値段が戻るんですよ。」
その差は数百万円。私は頭の中が真っ白になり、心臓の音が大きくなるのを感じた。
(せっかく物件を気に入ってくださったお客様になんて説明をしよう)
上司に連絡し何とか最初の価格で買える方法はないかと頭を捻ったが成す術はない。
(正直に、そして真摯にお客様に説明するしかない。もしかしたらお怒りになるかもしれない、でも真正面から向き合おう)
覚悟を決め
「大変申し訳ありません!こちらの物件は月内決済が可能な場合の価格らしく、今からですと間に合わない為・・・誠に申し上げづらいのですがお値段が今よりも上がってしまいます。本当に申し訳ありません!」
旦那様が静かに落ち着いた口調で
「え・・・?つまりどういう事なのかな?」
私は説明し尽して、何度も頭を下げた。

旦那様が奥様に耳打ちをして何かを相談している様子だった。
そして奥様が神妙な口調で
「私、あなたのことを信用しているからそのお値段で買います」
私は驚きと信じられない気持ちで
「確かにあの物件はなんの申し分もないのですが、価格変更後の予算でしたら
他も探せますし、全力でそのお手伝いもさせていただきます!」
「ううん。主人もあの物件を気に入っているし、私もあなたからだから安心して買えるの。
だから決めましょう、って今相談したのよ。」
旦那様もそれに続いて
「あなたに色々な物件の案内をしてもらって、誠実なお人柄だと感じたんだ。そしてどの物件資料にもちゃんと“デメリット”も記入してくれていた。家をただ売りたいだけだったら、あんなに詳しく“デメリット”なんて書かないだろう?価格の事もちゃんと納得いくまで説明してくれたから何も問題はないよ。」

私は勢いよく
「本当にありがとうございます!!!」
と伝え深々と頭を下げ、長らくお辞儀をしていた。お辞儀をしたものの、顔があげられない。目頭に熱いものを感じたからだ。それは涙。
視界がぼやけている。
「すみません、ちょっと目にゴミが入ったみたいで」
とベタな誤魔化しをし、顔を上げた。
私の涙を知ってか知らずか、それとも気遣ってくれたのか、ご夫婦は笑顔で新居について語っていた。

一筋縄ではいかなかったけど、いまでも年賀状を交わす仲で、ときにはお客様のご相談に乗ることもあるくらいの関係性を築けている。

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