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2017-12-15 13:11:50
こだわり。細心。でも決してクレームではない。
細かくチェックするお客様とそんなタイプがちょっと苦手な営業。
売主様、監督を交えてお客様との人間関係を築きあげていった営業のお話。




2011年東日本大震災とタイミングが重なってしまったお客様がいた。

2月に契約したその物件は、外壁や内装の設備などをお客様に自由にセレクトいただけるとても人気のある建売だった。

奥様はキッチンやお風呂などの水周りには細部までこだわり、楽しそうに設備を選んでいたことを今でもハッキリと覚えている。

2月中には設備がすべて決められ、基礎工事も終わっていた。7月初旬に引き渡しを行うスケジュールで問題なく進むと思っていた時に、震災が起こってしまった。


お客様はご自身の目で現場を確認するほど心配になっていたようだが、基礎は震災の影響を受けることはなかった。
しかし、週が明けると大震災の影響を目の当たりにすることになる。

「設備メーカーの東北工場が被災した!」

売主様から入った連絡によると、“津波の影響や交通事情で材料が届かずに生産ラインも止まり資材が入ってこない”という。
スーパーやコンビニから食料品がなくなり、ガソリンスタンドで給油待ち渋滞ができたことと同様だ。
とはいえ、入ってこない資材の多くは、奥様がこだわっていた水周りに関する物だった。

その事実をすぐさまお客様に伝えると、“しょうがないですね”と一定の理解を示したご主人に対して、奥様は違っていた。

「せっかく選んで決めたんだから・・・それで契約したんだから・・・」

きっと事情は理解している。でも、自分が選んで決めたこだわりのマイホームをすぐには諦められない。
感情の整理が簡単にできないのは当然だと思った。

翌週、売主様も交えて今後のことについて打ち合わせをした。入ってこない資材の代替品を選んでもらうことが主題だ。
ご主人とふたりで打ち合わせの場にやってきた奥様は浮かない表情だった。

奥様の憤懣やりきれない気持ちは先週の電話以降もおさまらず、ご主人すらしびれを切らしかけた時だった。

「最初に選んだ設備や資材を待つという選択肢もあります。でも、正直いつ入ってくるかわかりません。当然、引き渡しも先になってしまいます。」

私や売主様の説得には不満を述べていた奥様も、施工管理する監督からの言葉を聞いてようやく状況を理解してくれた。

諦めと納得が入り混じりながらお客様は代替品を決めて行った。それ以降はサイズ違いで収まらない代替品もあったが大きなトラブルもなく、施工日程に影響を与えることはなかった。

引き渡し前の内覧会。基礎で見つけた蟻の巣穴ほどの小さな穴を指さして奥様が言った。

「新しい家具を買って、穴なんてありませんよね?」

例えとしては上手いかもしれないが笑えない。監督がアイコンタクトで“任せなさい”と言っているようだった。

「この穴はですね、コンクリートから空気が抜けた後に・・・」

説明を始めた監督の言葉には、奥様も耳を傾け納得していた。どうやら、この二人の相性は良さそうだ。


基礎の穴はそのままで、引き渡しも無事に終了した。その後は事務処理などの細かい連絡のやり取りをする程度の交流を重ねていた。

半年ほど過ぎた年末、食事帰りのご家族と偶然お会いした。軽い挨拶と記憶に残らないような何気ない会話だった。

「何かあったら電話してください。」

そう言って別れたが、その二週間後に電話が入ることになる。


「どうしたら・・・何をしたらいいのか・・・」

朝早くに鳴った奥様からの電話は、ただ事ではなかった。電話の向こうで慌てふためく奥様は、私が知っていた奥様ではなかった。

「旦那が・・・入ったままで。返事がないんです。」

お風呂場から大きな音とうめき声が聞こえ、いくら奥様が呼びかけてもご主人から返事がないという。

(一刻を争う事態かも・・・)

すでに救助要請は済ませていた。それでも救急隊が到着するまでのわずかな時間、誰かの声を聞きたかったのだろう。状況を聞きながら奥様を励まし続けると救急隊が到着した。そこで電話を切ったが、その夜に奥様から連絡が入った。

「早朝からご迷惑を・・・。」

なんらかの原因で足を滑らせ全身を強打したご主人は、苦痛から助けを呼ぶことすらできなかったらしい。とにかく大事に至らず安心した。

(なぜ私に電話を?)

その日の出来事を振り返ると疑問は残ったが、“頼られたのかな?”と思うと少し嬉しかった。


築き上げられた人間関係

アフターフォローに関しては誠意を持って対応するが、お客様との交流はあまり上手な方ではない。ところが、このお客様だけはちょっと異なる。

「息子の賃貸を探せる?」

私の仕事ではない。きっとお客様もわかっている。それでも私に相談を持ちかける。

今思えばチリのような小さな出来事をひとつずつ積み上げて築かれた人間関係は、お互いの中で特別な存在になっている。実に嬉しいものだ。

2017-12-07 14:47:35
親しい人が手に入れたもの。それが羨ましくなってしまった。
子供の頃に誰もが経験するそれに似ているかもしれない新居探し。
夢や理想と強いこだわりをもったお客様との長期にわたり物件を探した営業のお話。




新人の時、デザイナーズ物件を担当した。そのエリアにデザイナーズ物件が出るのは珍しく、角地に建っていたこともあり、とても見栄えのするものだった。

その存在感に惚れ込んだご夫婦が即決した。
地元に強いこだわりを持つ奥様にとって、そのデザイナーズ物件は優越感と幸福感が満足させるものだった。
親族や友人に幾度となく“自慢のマイホーム”を披露し、一番影響を受けたのは奥様の弟さん夫婦だった。

弟さんだけでなくその奥様も同じ地元。身内が叶えた夢のような現実に、若い夫婦は夢を大きく膨らませた。

“大好きな地元に自慢のマイホームを”

自慢のマイホームを手に入れたお姉さんにそんなことを伝えたのだろうか。
“紹介したい人がいる”と私のところに連絡が入ったのは、物件を引き渡してから1年ほどが過ぎた頃だった。


弟さん夫婦がお店にやってきた。新居を探しているお客様は目当ての物件を指名することが多いが、このお客様にはそれがなく、まずは希望や条件を確認する必要があった。

「お義姉さんの家。あんなステキな家がいい。」

そう語る奥様に強く同調するようご主人も頷き話を続けた。

「あと、地元!これは譲れないね。」

幸せそうなお姉さん夫婦に魅せられたのだろうか。“子供の頃、友だちが持っているものが羨ましくて自分も欲しくなる”まさにそんな感じ。若いご夫婦の夢はどんどん大きく膨らんでいく。

夢が膨らむ−−それはいいことだ。ただ、エリアが限られている上に、デザイナーズ物件はそうあるものではない。
見つかる物件は、若い夫婦の予算では厳しいものばかり。もちろんそのことは最初から正直に伝えていた。

“希望に近い物件が出たら連絡する”と伝え、その後は数回やりとりしたが進展することはなく、連絡が途絶えてしまった。


携帯電話が鳴り、そこにあった名前は5年ぶりに表示されたものだ。

「覚えていますか?また家探しをお願いしたいんです。」

もちろん覚えていた。珍しい名前だったこともあり、すぐに当時の商談内容も頭に浮かんできた。

後日、来店いただいたお客様は、地元から離れ、家族が増えていた。
子供の将来を考え、地元で暮らしたくなったという。あらためて探している物件の希望や条件を尋ねてみた。

「場所は地元。それと、デザイナーズ物件ってやつ?」

まったくブレていない。それでも少しは現実的になっていると思い、用意していた物件を資料で紹介した。

「コレは、場所が違う。」
「コッチは、デザイナーズじゃない。」

こだわりが強い。その後1年近くにわたり、いくつか希望に近い物件を紹介したが決め手となる物件はなく、ふたたび連絡が途絶えてしまった。


「見つけた!」

半年ぶりにお客様から電話が入った。自身で見つけたという物件は、現地販売用の看板を辿って行った先にあった。
その看板に“ハウスプラザ”と記されていたことから私に連絡をしてきた。決め手は“地元”だ。

別の店舗へ異動していた私は、お客様がこだわる“地元”エリアの担当から外れていたが現地でお客様と会うことになった。

今までに紹介した物件より見劣りする部分があり、知っていながらあえて紹介しなかった物件だった。ちょっと自責の念を抱えながら、久しぶりにお客様と会った。

「ふたりで話したんだけど、やっぱり“地元”だけは譲れなくって。」

半年で少し締まった身体つきになっていたご主人は、開口一番そう語り“地元”にこだわり物件を探し続けてきたという。
ふたりで探し出した物件は、間取り変更も多少の要望が叶えられ、内外装のカラーをアレンジできる。デザイナーズではないが今とても人気のあるものだ。

この半年の間に、医者から健康状態を指摘されたご主人は、仕事帰りに“ひと駅手前下車”を続けていた。
歩きながらいろんな家を見たご主人は、“自分たち家族にふさわしい家を探そう”と気持ちを固めたらしい。

「あれからふたりで物件を探して、自分たちが夢や理想ばかりの膨らんでいたことがわかりました。そんな自分たちにずっと付き合ってくれたあなたから買いたくって。」

そう語ったご主人とその横にいた奥様は、とても幸せそうな表情をしていた。

長かった家探しの終焉

引き渡しの時だった。

「長いこと、お世話になりました。これで終わりですね・・・。」

別れを惜しむかのように少し寂しそうな表情を浮かべたご主人に“何かあったらご連絡ください”といった旨を伝えると、すかさず奥様がひとこと続けた。

「何かって、問題がってこと?それはイヤね!」

年齢が近いこともあって、この家族とは特別な関係が今も続いている。

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