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2019-03-18 16:11:07
【泣ける住宅購入】ロープレ研修とコワモテの客
店長のロープレ研修。
その数日後、それが活かされるお客様との出会い。
ちょっとコワモテのお客様と新人営業を見守る店長と新人営業のお話






大学で民法を学び、それを活かそうと思ってハウスプラザに就職した。知識も経験も営業スキルもない私には部活動で培われた洞察力や体力があった。それに気付いたのは、お客様とお会いするようになってすぐだった。

足りないものを補ってくれたのは、店長や先輩だった。店長は自らの時間を削り営業に必要なアポイントの取り方や物件の提案方法などのロールプレイングを定期的に実施してくれた。それらはメリットとデメリットの説明だけでなく店長の経験談はとても勉強になった。

そして、日常業務の中でわからないことを丁寧に教えてくれたのは先輩だった。営業として実績を残しながらも数字では評価されない雑務など店舗全体のことを考えて黙々と働く姿に憧れさえ抱いた。



恵まれた環境で仕事をしている私は、お客様にも恵まれているのかもしれない。現地販売会場にいた私の携帯に店長から電話が入った。

「これからお客様がそっちに行くから。一度、電話してみて。」

指示に従いお客様の連絡先へ電話を入れると、ご自宅へお迎えに上がることになった。インターホンを押し、はーいという声とともに扉が開いた瞬間、私は固まった。運送業で働くご夫婦の出で立ちに圧倒された。とくにご主人は昭和の名優菅原文太さんの若い頃にそっくりで、声を掛けがたい雰囲気を醸し出すコワモテだった。ただ、話してみると明るく気さくで、とても丁寧な言葉を使うご夫婦だった。

「こっちの物件の方に興味あるんですよね。」

お客様から伝えられたそれは、なんと数日前に店長からロールプレイングによる研修を受けていた“借地権付き物件”だった。

「ご存知ですか?」

物件見学へ向かう車中、研修で学んだことをお客様にお伝えしていった。

「毎月地代を地主に払うかわりに、土地にかかる固定資産税はゼロですから。」

借地権付き物件のメリットとデメリットを説明するとお客様は、なるほどと理解を深めていった。

いくつかの物件見学を終えたころには緊張感も薄れ、お客様も新人営業の話に耳を傾けて会話が続くようになっていた。

「話しやすい営業さんでよかったです。」

他の不動産屋の営業とはソリが合わなかったというお客様は、“打ち合わせをするためにお店へ”という私の提案に快く同意した。



お店に到着すると、店長を交えた4人で物件の打ち合わせを行った。絞り込んだ物件は、お客様が最初から気にしていた借地権付き物件だった。

「借地権付きはですね・・・。」

経験豊富な店長の丁寧な説明にお客様は強く関心し、信用の度合いを高めていった。そして、借地権付き物件を購入する場合、住宅ローンが限定されてしまうことをお客様に伝えたのも店長だった。

「ちょっと調べてきてごらん。」

店長に促された私は自分のデスクに戻り、運送業のお客様が借地権付き物件で組める住宅ローンを調べはじめた。近くにいた先輩もいっしょになって探してくれたが、それは見つからなかった。

(住宅ローンが組める銀行がないと知れば、お客様がっかりするだろうなぁ・・・。)

お客様と店長のいるテーブルに戻り、言いにくいことを伝える経験がなかった私が立ったままの姿勢でいると店長から声がかかった。

「今から別の物件を見に行くことになったから準備して。」

広さこそ劣るもののエリア・間取り・価格帯といった条件はお客様の要望にぴったりで、土地の所有権もある通常の物件を私の離席中に店長が提案し、お客様がそれを望んでいた。



日はすっかり落ち、あたりは真っ暗になっていたが、店長とともに案内した物件をお客様はとても気に入り、その日のうちに申し込みを済ませるためにもう一度お店に戻った。

「いい物件に出会えました。」

申し込み書類にサインしたお客様は満足そうに笑みを浮かべた。そして、ふうとひとつ大きく息を吐いて疲労感をあらわにした。それもそのはず、新しい日付を迎えていた。

申し込みを終えたお客様をご自宅に送り届けたあと、お疲れ様でしたと声をかけた私に店長が言葉を返した。

「おつかれ。お前に任せて良かったよ。」

店長の言葉は、心身ともに疲れ切った私にズシリと重く響き、仕事への充足感をより満たしてくれた。


コワモテ夫婦とのその後


引渡し後にお客様の新居へ挨拶で伺ったとき、感謝の言葉をいただいた。

「いい家を紹介してもらいました。本当にありがとうございます。」

不動産の営業マンであればいい物件を紹介するのが当たり前で、諸先輩方は多くのお客様からいただいている言葉かもしれない。しかし、新人営業の私は“感謝されること”がこんなにも嬉しいものだと初めて気付かされたお客様だった。

ちょっとコワモテのご夫婦からは、今もときどき食事のお誘い電話が入る。そんな関係になれたことが嬉しくあったりもする。