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2018-06-20 17:57:26
【泣ける住宅購入】迷いと不安を打ち消した長男からのメッセージ
大きなものを背負うことに悩むシングルマザー。
メモに書かれたメッセージで一歩前に踏み出せたお客様と働く母に共感した営業のお話。




「妹のためにマンション探しをお願いできますでしょうか。」

20歳と18歳の息子さんを育てるシングルマザーの妹さんを心配するお姉さんからの電話だった。
妹さんはマイホームなど縁のないことと考えているらしいが、いつか独立していく息子さんたちを考えれば、賃貸ではなく老後の心配を少しでも減らせるマイホームに住んで欲しいとお姉さんは願っていた。

私も働く女性として、同世代の女性が働きながら子供を育てる大変さをわかっている。でも、旦那がいる私には知りえない苦労もきっとたくさんある。

「力になりますから、ぜひ一度、妹さんとお越しください。」

来店を促して電話を切ると、私は妹さん家族が負担にならず幸せに暮らせる間取りの物件を探した。


数日後、姉妹が来店された。年相応の落ち着いた雰囲気の装いで現れたおふたりは、仲の良い友人のようにも見える。ふたりの息子さんも誘ったけれど、どちらも思春期なりに忙しいらしい。

お姉さんに連れられてきた妹さんは、俯き気味であまり口を開かなかった。
お姉さんがリードして話を進めていくと、私と妹さんが同い年であることがわかった。そのあたりから徐々に打ち解けはじめた妹さんは、ようやく自らの言葉で話すようになった。

パートタイム従業員であること。息子たちにひと部屋ずつ与えたいので3LDKの間取りが欲しいこと。月々支払うローンの心配。若くしてご両親をなくしたこと。お姉さんが親代わりで息子たちも信頼していること。

少し話が逸れはじめた妹さんの横で、“そんなこと話さなくてもいいでしょ”とやや照れくさそうなお姉さんが印象的だった。

その日、マンションを6軒見学して、ふたりは2軒に絞り込んだ。パートタイムでも組める住宅ローンも見つけた。そして、ふたりの息子さんと見学して、どちらにするか決める日がやってきた。

ふたりの息子さんは移動中も見学中も興味を表に出さず、“ああ”や“うん”と力のない相槌を打つだけだった。それが思春期真っ只中の20歳と18歳の男子なのだろう。私の息子にも似たところがあり、あまり気に止めなかった。

母である妹さんは、他人には見えない息子さんたちの意思表示を読み取り、ひとつに決めた。そして、その決定を一番喜んだのはお姉さんだった。

選んだマンションは3LDKで、息子さんたちにそれぞれ部屋を与えることができる。さらに、妹さんはリビング隣りの和室を喜んでいた。

「だって布団を並べて3人で寝ることもできるでしょ?」

息子さんたちに部屋を与えられる喜びと寝息さえ届かなくなる寂しさ。母の葛藤を打ち消すものが川の字になれる和室であると、マイホームへの思いを前向きに表現した。

ただ、“母がローンを抱えれば、息子たちを心配させてしまう。だから少し結論を待って欲しい。”と息子さんたちを気にかけ、妹さんはその日の結論を見送った。


3日後、妹さんから着信があり電話に出ると妹さんは嗚咽していた。テーブルに小さなメモが置かれていたと声を詰まらせながら伝えてきた。

「息子が・・・、長男が『僕がこの家を買うよ。』って・・・。」

シングルマザーとなった母へ負担をかけまいと、幼少の頃から長男は弟の面倒をみながら、自らの欲求を口にしたり意思を示したりすることなく10数年が過ぎていった。

そんな長男がひとりで大きなものを背負おうとする母に、いっしょに背負う覚悟と家が欲しいとはじめて意思を示した。その成長と変化が嬉しくて、感極まっていたのだった。

“迷いと不安を打ち消した長男からのメッセージ”

それが母の決断を後押しした。


思春期の息子さんたちも少しずつ変化が現れた。長男はお母さんと並んで説明を聞くようになった。
人見知りがちだった18歳の次男も自分の部屋を持つ喜びから、ポスター貼ってもいいの?時計は?画鋲でも?と私に質問してくるようになった。

引越しが落ち着いた頃、訪ねた新居のリビングに飾られた一枚の似顔絵が目に留まった。

「昔、描いてもらったんです。そうしたらメッセージも入れてくれたんです。」

あどけない表情の兄弟の傍には、3人の絆を物語るメッセージがこう記されていた。

“いつもそばにいるよ”



切手のない封書


ある日、私の名前だけが書かれた封書が届き、裏面には小さくお姉さんの名前があった。
わざわざ届けられた手紙には、感謝の言葉がつらつらと綴られていた。

“あの時、私の話をすべて聞いて、妹をお店に連れて行くことを勧めてくれなければ、妹たち家族も私も変わらず不安を抱えたまま生活を送っていたでしょう。(中略)親身になってくださったことが、本当にうれしかったです。”

同じ女性として共感し過ぎかなと反省したこともあったが、その手紙で救われた気がした。