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2017-10-17 09:27:53
【泣ける住宅購入】「やっぱりやめたい」といったお客様を覆した一言
お客様とは一定の距離を保ちたい普段は淡々とした営業担当。
そんな営業の口から出たひとことが、お客様の揺れ動く心を射止めたお話です。




犬を連れたご夫婦が現地見学会にやってきた。
犬の散歩コースで偶然見かけた売り出し物件が以前から気になっていたというお客様。すでに半年ほど新居を探しているという。

ゆったり余裕のある大きめな2階建て。吹き抜けがあったりキッチン周りがピアノ塗装を施されていたりと売主のこだわりをいたるところに感じられる物件だ。
その優雅な内装を見たご夫婦、とりわけ奥様は水廻りやキッチンをとても気に入られた様子だった。

現在の住まいから近い場所で探していたご夫婦。そのエリアにはあまり物件は出ない。
なによりも営業として、これ以上のオススメ物件は他にないと断言できるほどの良い物件だった。


それでも他の物件も見てみたいという理由で、すぐにお申し込みとはならなかった。
しかし、私が思ったとおり周辺エリアでお客様の希望に叶う物件は見つかることがなく、1ヶ月後には無事お申し込みしていただけることになった。

物件申込書を書いている時に、契約日は「忙しいので来週末に。」というお客様からの要望があった。
海外を飛び回ることもあり、遅い時間に帰宅する毎日が続いているらしい。

だが、1週間というのは頭の中を整理するには実に長すぎる。営業的に早く契約が欲しいというわけではなく、お客様の不安が増幅されたり新たな悩みが生まれたりするからだ。そんな私の不安は、的中することになる。


契約の当日。10時過ぎに、お客様から電話が入った。来店時間の変更連絡かと思ったが、そうではなかった。

「今日の契約、やめたいんです。」

申し訳なさそうに話すお客様。動揺を悟られまいとする私。
上司に相談した結果、理由を伺いたかったので店までご足労いただくことにした。
30分もするとご主人が一人で来店された。若かった私は営業担当ではあるものの、事情が事情なだけにその場は上司に任せることになった。

30分だろうか1時間だっただろうか。私は上司の横で、ただただ黙ってお客様と上司の会話を聞いていた。

先日、物件申込書を記入したその日以降、他社へ断りの連絡を入れたというお客様。そのうちの1社から、それまで紹介のなかった未公開物件でアプローチがあったという。
資料もできていない未公開物件はこんな感じだった。

“現在お住まいの場所から近い”
“奥まってはいるが角地”
“3階建て”
“秘蔵の未公開物件”

その物件場所を地図で確認したとき(あぁ、ここかぁ・・・)と心の中で呟いた。よく知っている場所だ。

「未公開中の未公開。お客様にはじめてご紹介する物件です。」

きっとそんな魅惑的なセールストークを告げられたのだろう。古い家屋の取り壊しも済んでいない、新しい物件の間取りも計画段階のものを秘蔵っぽく出してきたにちがいない。
なによりも、お客様を悩ませてしまった一番の原因は、契約までの一週間という時間だ。


上司はお客様の悩みを受け止めつつも、見学した物件との比較を説明しながら会話を進めていた。が、ついに私は黙って聞いていられなくなった。

「お客様には、こっちの家に住んで欲しいんです!」

心から出た言葉だった。秘蔵の未公開物件は私の住まいから目と鼻の先、まさに地元だった。
間取り・広さ・立地・周辺環境・治安など不動産屋の目を持っていれば、どちらにアドバンテージがあるかは明らかだった。
それと同時に、なぜかキッチンや水廻りに惚れ込んでいた奥様の表情が頭の中に浮かんできた。突然出た私の言葉には、お客様より上司が驚いていた。

「そうだよな・・・」

そうつぶやくと、お客様は腕を組み考え込んだ。しばらくすると意を決したのか、お客様は携帯電話を取り出してどこかに電話を入れた。

「やっぱり、あの2階建の物件を契約するよ。君が気に入っていた家だ。」

電話の向こう側が誰なのかすぐにわかる会話だった。あまり多くを語らずに電話を済ませると、お客様の求めですぐに契約書の作成に取り掛かった。

契約を済ませたお客様をお見送りすると、上司が私にひとこと言った。

「さっきの言葉、熱かったな。」

普段、淡々とした私からは想像できない熱い言葉に、上司は驚いたという。

「さぁ、昼飯行くぞ。」

気付けば、14時近くになっていた。


お客様のこころを動かした瞬間

自分はどちらかといえばお客様に深入りせず、一定の距離を保っていたいタイプだ。
それなのに、自分の言葉がお客様の心に届いたことに自身のことながら少し驚きもある。

その後、お客様とは特別なお付き合いはないが、近所ということもあり愛犬と散歩するご夫婦をお見かけすることがある。

その度に思うことがある。

「心から正しいと思うことは遠慮せずに伝えていこう。」