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2017-07-01 17:44:38
営業に責任はなくても、クレームは営業が受けるものです。
大きな問題に直面したとき、どう対処するか。
逃げたくなっても向かい合い、ふたたび契約に結び付けた営業の話です。




夏休み前の8月。家の引き渡しまであと1週間となった頃、いつものように実施したお客様との内覧会でのこと。
室内の確認も終わり最後に外周りを確認している時に、お客様が小さな違和感を私に伝えてきた。
「あれ?このポスト傾いてない?」
少し笑いも混じりながら伝えるお客様の指摘はその通りで、新築物件の前に立つポストの柱が傾いていることは誰の目にも明らかだった。
「本当ですね!直すよう言っておきます。」
その場で私は売主様へ連絡を入れ、引き渡しまでに修繕するよう伝えて内覧会は終わった。


予定通り完了した引き渡しの日から3日後のこと。お客様からクレームの電話が入った。
「今すぐ来い!!」
大変なことが起こっていると感じた私がすぐにお客様の家へ向かうと、とんでもない事実を聞かされた。
バルコニーで作業をしようとした時に違和感を覚えたお客様は、持っていた水平を測る“水準器”を使用したところ家が傾いていることが判明したという。
内覧会で気付いた小さな違和感は、ポストが傾いていたのではなく新築物件が傾いていたことを意味していた。
「あなたは、こんな家売ってんの?私たち家族はどうすんの!」
その強い口調からは怒り以上のものが感じられ、怖くてその場から逃げ出したかった。引き渡しからわずか数日の新築物件が傾いていたのだから当然のこと。
すぐさま売主にこの事実を伝えると「わかりました。すぐに買い戻しの方向で話を進めさせていただきます。」という答えが返ってきた。
売主が自らに非があることをすぐ認めたことに、安堵半分と不安半分と気持ちに違和を感じたことが今でもハッキリと蘇ってくる。
その日から夏休みを返上して連日お客様の元へ通い売主の調査に立ち会うと5日目に売主が買い戻すことで一件落着になった。
しかし、それでお客様の気持ちが治まるはずがないこともわかっていた。


お客様は以前のお住まいに戻り、引き続き物件を探しているようだった。
ちょうどその頃、不信感しかないであろう私になぜかたびたび電話してくるようになっていた。
夜遅い時間でも休日でも、逃げたくなる気持ちを抑えてそのお客様からの電話だけは出るようにしていた。

「あんな物件を売りつけて・・・」とチクチク胸を刺されるような内容から再び始まったお客様との電話のやりとりは、やがて少しずつ変化していった。


客:「こんな物件あるんだけど、どう思う?」
私:「いいと思いますよ。」

客:「あっちの業者、大丈夫かなぁ?」
私:「その業者なら心配いりませんよ。」

客:「あの家、外壁剥がして柱だけになっていたね。」
私:「はい。綺麗にやっているみたいですね。」


営業としては失格かもしれないけど、もう関わることはないだろうと高を括っていた私は、相槌を打つように、そして不動産に携わる者の見地として言葉少なめだが、素直な気持ちを伝えるようにしていた。


「あの家、綺麗に建て直したね。」
そんな会話から始まったいつもの電話だった。が、次に出てきたお客様の言葉に私は耳を疑った。
「もう一回、あの家見せてくれない?」
お客様が、あの傾いた新築物件にまだ興味があったことに驚かされた。
もちろんお断りできるはずもなく、その電話で内覧の日程を調整した。

内覧の日、修繕した箇所だけでなく隅から隅まで持参した“水準器”を当てて確認していたお客様。

「うん・・・うん・・・綺麗に直ったね。」
ひとつずつ確かめるように頷きながら、最後に笑顔で私にこう言った。
「嫁さん、連れてくるから。いいよね?」
それから数日後、お客様は綺麗になったあの新築物件にふたたび入居することが決定した。


3ヶ月間見守り続けていたお客様
「嫁さんと話したんだけど、やっぱりこの家がいいんだよ。」
お客様は“うんうん”と何度も頷きながら、そう話してくれた。
そして私からふたたび同じ新築物件を契約する時に、お客様はこんなことも話してくれた。
退居してからの約3ヶ月間、綺麗に修繕されていく姿をずっと見守っていたこと。
そして、不信感を抱いた営業担当の私が電話に出続けたこと。
それに誠意を感じ、同じ物件を買い戻すことに不安が無くなったこと。
それからずいぶん時間が経過したけど、そのお客様からは今でも呼び出しの電話が鳴る。

「ゴルフに行くぞ!」って。

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