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2018-11-08 14:45:59
住宅ローンが組めなかった過去がある少し近寄り難いお客様と、
お客様の気遣いで初契約をいただき大きなことを学んだ新人営業のお話




今から5年以上前の夏の終わり、10棟を超える大型分譲住宅の現場に上司と立っていた。配属されて約3ヶ月、営業マンとして半人前の私は物件情報を頭に詰め、上司の指示をよく聞き、できることをひとつずつ丁寧にこなした。

そんな未熟な営業マンが立つ現場に、少し見た目がいかつい40歳前後のご主人とややふくよかな奥様、ふたりのスポーツ少年がやってきた。上司から接客を任された私は声をかけた。男らしさを前面に出したファッションに身を包むご主人は睨みを利かせるような鋭い目が印象的で、人見知りをしない私でも声を掛けにくいタイプだ。

「よろしかったら、ご案内いたします。」

しかし、未熟者のトークは長く続かない。完成間近の4棟を順々に見学しながら希望条件・職種・収入など物件探しで必要な情報を聞き出してしまうと、その後はお客様の後ろをついて回り聞かれたことに答えることしかできなかった。

「さっきの物件より広いんでしょ?」

一目瞭然のことをご主人は私に尋ねてきた。それだけではなく、その後も手渡した資料を読めばすぐにわかるようなことばかり質問してきた。

“やっぱり新人営業マンだから甘く見られているのだろうか・・・。”

そんなことをぼんやりと考えていた。



明朗闊達な奥様は歯切れよく意見を言い、荒々しい言葉でご主人はそれに応じる。

“選択権は奥様にあり、決定権をご主人が握っている”

そんなバランスのとれたご夫婦は仲睦まじく、ずっと笑顔で会話を続けた。ご夫婦は時折ふたりのお子様に声をかけるが、小学校高学年のお兄ちゃんはスポーツマンらしい礼儀正しさを持ち、しっかりと弟の面倒をみていた。

「何のスポーツやってるんですか?」

ひねり出した私の投げかけに、即座に言葉を返してくれたのはご主人だった。

「ラグビー。俺がやってたしね!」

非行や校内暴力が社会問題になっていた30数年前に放送された学園ドラマの影響でラグビーをはじめたと気さくに話してくれた。その後もお客様からの質問は資料を見ればわかるものばかりだったが、その答えなどどうでもよく、堅くなっていた新人営業との距離を縮めるための質問だったことに私が気付いたのは物件の見学を終えた時だった。



「そこらのサラリーマンより稼ぐんだけどな・・・。」

いくつかの物件を見学していたお客様は、トラックドライバーという職業を理由に住宅ローンが組めなかった過去があると話してくれた。そのことを現場にいた上司に報告すると、“ハウスプラザの強みはその問題を解決できることだよ”と言いお客様を店舗へお連れするよう私に指示した。

私は上司の言葉をそのままお客様に伝え、店舗へ移動することになった。その間も“言葉のおつかい”だけの私に顔色ひとつ変えず、私を飛び越えて上司と直接話すこともせず、私の立場を尊重してくれるお客様の優しさを感じた。

しかし、資金計画の話となると新人営業マンに出る幕はない。上司に全てを委ね、私は上司に指示されるまま資料を取りに行ったり、各所へ連絡したりと同席する時間などほとんどなかった。だから、上司とお客様の間でどんな会話が行われ、お客様の購入本気度もわからず、それを考える余裕などないほど精一杯動き回った

「申込書、取ってきて。」

上司のその言葉を聞いた時、ようやくお客様に目を向けることができた。すると、一点の曇りもない表情をしたご主人と奥様がこちらを見返してニコリと一瞬笑った。

申込書を書き終えると翌日には滞りなく契約を結ぶことができ、私にとって初契約のお客様となった。



引き渡しまでの間、何度かお客様のご自宅に訪問する機会があった。

“物件の話をする時は、必ずご夫婦揃うのを待つこと。”

上司に言われたことをきっちり守った。そのため、ご主人が帰宅するまで奥様やお子様たちと趣味・天気・スポーツ・テレビなど雑談で間をつなぐこともあった。

「ちょっと見てあげてよ、このキズ。笑っちゃうでしょ。」

奥様は、“やめろよ”と拒絶するお兄ちゃんを呼び寄せると頭にできた傷を自分のことのように誇らしげに見せてくれた。そんな温かい家族のワンシーンを見るたび、お客様との距離が縮まったことを実感した。


その後もお客様から学んだ


『これ気持ち。持って行って。』

引っ越し祝いで訪問した帰り際、玄関で奥様に声をかけられ振り返ると家族4人がきちんと整列していた。

「ありがとう。また来てな。」

ご主人は500mlビールが24本入ったケースを軽々と持ち上げ、私の胸元へ突き出した。

“好きな銘柄だ!”

雑談で一度話したことを覚えていてくれた。

(でも、これって真逆だよな。営業がしなくちゃいけないことだ・・・。)

それは特別な感動を学び、学生気分が抜け切った瞬間だった。

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