<< 2019年5月 >>
1
3
4
5
6
7
8
9
10
12
13
14
15
16
17
19
20
21
22
24
25
26
27
28
29
30
31

記事カテゴリー

月間アーカイブ
前の記事 2019-5-23の記事

1/1ページ 

2019-05-23 15:37:10
中古マンションの購入を決断した
ふたりの子供を育てるシングルマザーのお客様から
バイタリティと向上心を学んだ営業のお話






マンションを探している女性からメールが入った。メールには希望の条件が記されていた。

エリア:世田谷・渋谷・目黒
物件種別:マンション
間取り:3LDK
広さ:不問
築年数:不問

ここまでは何の問題もなかったが、希望する価格帯にあてはまる物件は皆無だった。

(どう切り出そう・・・)

私は戸惑いながら、その女性に電話を入れた。

「このエリアで販売に出されている中古マンションのなかでご希望の価格帯ですと・・・。」

“ありません”と正直に伝えようと思ったが、完全否定すれば営業としては短絡的であり、お客様の購入意欲を削いでしまうような気もした。

「2LDKで44㎡の中古マンションがあります。いかがでしょうか。」

それが適切な提案なのかわからなかったが、女性は予想外の反応を示した。

「全然問題ないです。そこでいいです。」

夢や希望を抱いて自宅を購入する人は慎重に検討する。じっくり時間をかけて想像するのも楽しいという女性も多い。ところが、小学6年生と乳幼児を育てるシングルマザーの決断はとても潔かった。

後日、女性の職場近くのカフェで待ち合わせた。そして、私が持参した物件資料と図面を一目しただけで女性は意を決した。

「これを買えば頑張れます。これにします。」

まだ見学すらしていないのに物件購入の意思を示した。電話の時にも感じた女性の潔さが気になり、そのことを女性に尋ねた。するとシングルマザーに至った経緯と過去に踏ん切りをつけて新たな人生を歩み出すために家を買う決意したと私に話してくれた。



数日後、物件見学と資金計画の打ち合わせで、ふたりのお子様を連れて女性が来店された。見学は問題なく行われ、上のお子様は自分だけの部屋ができることを少し照れながら喜んでいた。ところが資金計画の打ち合わせで先行きは怪しくなった。ひとつは、派遣社員としての収入が返済能力ギリギリであること。もうひとつは、別れたご主人の借入金の一部が女性名義になっていたこと。場合によっては保証人や担保が必要になることを伝えた。それでも女性の意志は揺らぐことなく、その日のうちに申し込みを済ませて帰宅していった。

やはりというか、住宅ローンの事前審査で断られ、本審査までたどり着いても決済が得られない。当たった金融機関は10社ほどに及んだ。

「やっぱり無理なのかなぁ・・・。」

電話先の女性の声は、明らかに落ち込んでいた。

(悔しいが、もう潮時か・・・。)

私は心の奥ではそう思っていた。こんな状況に力を与えてくれたのは、売主様側の営業マンだった。「一緒に頑張りましょう」と声を掛け続けるだけでなく、ついには金融機関を探し出してくれた。私が無知だった訳でなく、上司や同僚さえも聞き及ばない金融機関にすがる思いで私は女性を伴って訪れた。

金融機関の担当者から住宅ローンを早期に、そして、より確実に決済が降りる手段の説明があった。隣で真剣に話に耳を傾けていた女性に私が問いかけようとした時だった。

「それならば大丈夫です。もう父に頼んでありますから。」

見学した日の資金計画の打ち合わせで告げた“場合によっては”という仮定の話を女性は取り計らいくださっていた。

「そうですか。わかりました。1ヶ月ほどでご連絡差し上げます。」

金融機関の担当者は淡々と書類を作成し終え、私たちはその場をあとにした。



それから1ヶ月後、住宅ローンは無事に決済された。最初に物件を見学して売主様に買い付けを伝えてから2ヶ月後のことだった。

来店いただいた女性に通称“契約書ファイル”と呼んでいる茶色の分厚い書類をようやく手渡すことができた。本来ならば2ヶ月前に手渡すものだったが、荷物と乳幼児を抱えた女性が持って帰るには大きく重すぎた。そこで、私がずっと預かっていた。

「ハウスプラザさん、売主さん、みなさんには本当に感謝しています。いろんな人の思いが詰まった分だけファイルが重くなったのかな。」

ファイルを抱きかかえた女性は表情を綻ばせたが、その重さと困難に耐えられるのだろうか。ずっと見守っていくのも営業の務めなのかもしれない。


家を買う=バイタリティ


新しい家で新たな人生のスタートを切った女性は、家を買うというひとつの目標を達成した。

「これからも2軒目、3軒目って家を買いたいんです。その夢があれば、頑張れます。これからもいい提案といい物件を紹介してくれませんか。」

もっと広い家に住みたい、賃貸収入で安定した生活を送りたいと女性は涙ながらに今後の人生を語ってくれた。

マンション購入による月々の返済は、生活費を圧迫してしまう。それでも「資格を活かした新たな仕事を見つけるから大丈夫です。」と女性は気丈に振る舞った。

私もこの女性に負けないバイタリティや知識と教養を身につけなければ。

1/1ページ