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2019-05-18 14:53:19
【泣ける住宅購入】“いいね”的マンションの購入とリノベーション
マンション探しで大事なのは条件よりも自分の感覚。
そして、知り合いが住んでいない街であること。
都会的なライフスタイルをおくる独身女性のお客様と女性営業のお話






中古マンションの仲介とリノベーションを提案するのが私の仕事。私のいる店舗には仕事とプライベートのバランスと充実した時間を追求する都会的なライフスタイルを求めているお客様が多く、住まいにも機能や価値を求める方が多い。そのため、住む人にとって心地よい空間へと作り変えるリノベーションの提案は必須であり特化している点は、他の店舗と大きく異なっている。

独身女性の30代以上のお客様が多く、家賃や月々の支払いよりも気に入るかどうかが決め手になったりする。もちろん不動産価値やスペックも加味しているが、InstagramやFacebookの“いいね”のボタンを押す感覚に近いものが重要だったりする。ひょっとしたら心のどこかで友だちからの“いいね”を期待しながら物件を探しているのかもしれない。

秋が近づいた頃、都心の山手、近所には緑地も多い高層マンションを見学したいという女性からメールが届いた。基本的にはメールで段取りを進めていくのもお客様のライフスタイルに合わせるため。緊急の場合以外は、電話をすることはほとんどない。

待ち合わせ場所にやってきたのは40歳くらいの女性。同じ女性として憧れてしまうオシャレなお姉さんだった。

「眺望はいいけど、築年数が気になるのよね。」

築年数の情報は伝わっていたが、はじめて見たマンションの経年変化は女性の想像を超えてしまっていた。もう一件、私が用意していた同じような条件のマンションに向かったものの、近所まで行くと「音が気になりますね」と大通りの騒音を理由にマンションに入るまでもなく見学は取りやめになった。

“テキパキと決断するかっこいい女性。そして、おしゃべり好き。”

それが最初に会った時の印象だった。



賃貸からの住み替えを検討している女性には“こだわり”があった。その“こだわり”は、眺望・エリア・周辺環境・築年数・予算といった“条件”とは違ってその女性だけが持っている感覚的なもの。やっぱりSNSの“いいね”と似た感覚かもしれない。多くの条件が揃った物件でも、女性自ら探し出した物件でも、何かしらのネガティブ要素があり“いいね”は見つからなかった。そして、あっという間に2ヶ月が過ぎていった。

「内装はいいけど、眺望がダメ。」
「築年数はいいけど、もっと広さが欲しい。」

見学した物件すべてに、いいところ、悪いところを評価してくれた。それは次の物件を探す手助けとなった。そして、女性にはひとつだけブレないものがあった。

“会社の同僚が住む街には住みたくない”

これが唯一、2ヶ月間変わらなかった“こだわり”だった。



年末が近づいた師走のある日、女性からメールが入った。

「頭を整理する必要があり、時間をください。」

物件探しの中断を伝える内容だった。私が2ヶ月の間に案内した物件は、10件を超えていた。他の仲介業者でも探していることを聞いていたので、相当な数のマンションを見学したのだろう。忙しい仕事をこなしながら週末にはマンション探し、心身ともに疲れ切ってしまったのかもしれない。頭の中を整理する時間が必要なのは私にも理解ができた。

一方で、マンション探しを諦めた“営業のお断りメール”のような気もしていた。それでも同じ女性として“もう一度、理想のマンションを思い描ければいいな”とも願っていた。

年明け、女性からメールが届いた。そのメールは私にとっては残念なもので、他の仲介業者が専属で扱う東京湾からほど近い人気エリアの高層マンションを購入することを決断した内容だった。

今までと同じようにビジネスレターのような形式ばった文章の中には、こんな一文が差し込まれていた。

「ごめんね。ほんとに、ほんとにごめんね。」

営業としては残念だった。でも、親しみを感じた一文は、営業とお客様の垣根を越えたような気がした。


妹とお姉さん


メールの最後に新たな依頼があった。

「大変申し訳ないのですが、リノベーションだけでもお願いできませんでしょうか?」

リノベーションだけの依頼は受けるべきでないという上司を説得して、私は女性からの申し出を受けた。理由は、営業としてはではなく、妹のように接してくれたお姉さんに報いたかったから。でも、営業とお客様の関係を越えてしまっていることもわかっていた。

“一番親身になってくれたから”と私からの仲介で購入したいとマンションの売主さんに掛け合ってくれたことをリノベーションの打ち合わせで知った。叶わなかったけれど、その気持ちは本当に嬉しかった。

入社して丸2年が過ぎ、お客様と同じ距離、同じ歩幅、同じ方向を向いた営業が正しいのか模索しながら毎日を過ごしている。