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2019-02-14 15:14:53
【泣ける住宅購入】失敗と感じた新居での生活と子供の適応力
ファーストコンタクトで感じた波長。
環境の変化に戸惑い、そして適応する子供たち。
笑顔にうっすら涙を浮かべたお客様と営業マンの話






営業としてダメな部分がある。集客力がない。努力に結果が伴わない。だからこそ目の前のお客様に集中し、丁寧な接客を心がける。電話やメールではなく、会って身振り手振りで伝える感情型営業マンだ。

4人のお子様を連れたご夫婦が現地販売会場にやってきたのは、10月中旬だった。

「近所の物件を見学してきたんですけど、違いました。」

にこやかに話すご主人とは波長が合うのか、初めてお会いしたのにしっくりくるものを感じた。ご主人も同じことを感じたのだろうか、すんなりと探している物件の条件や連絡先を教えてくれた。

「一緒にいたベテラン営業さんの押しが強すぎて。でも、あなたとは気が合いそうなんですよ。」

そんな電話が翌日に入った。相性もあるが先輩ではなく自分を選んでくれた連絡に、しばし上機嫌だったことをはっきり覚えている。



しばらくして条件にぴったりの物件を見つけ出した。ただ、仲介としては避けたくなる理由が。売主様も販売している直販物件だった。それでも提案したくなる3つの理由があった。

ひとつは、価格・広さ・間取りなど希望条件にぴったりだったこと。そして、私が生まれ育った地元の物件で街の素晴らしさに自信があったこと。お客様の望む物件であり、お客様の幸せを思えば手数料なしの売主へ流れても仕方がないと素直に思えたことだった。

「午前はハウスプラザさん、午後には他社の物件見学を予定しています。」

そんなことを正直に話してくれるお客様には、満足いく家を見つけて欲しかった。完成された物件には直販を示す看板も掲げられ、お客様がそれを目にしたことをわかっていたが、物件紹介と周辺環境を実際に歩いて案内した。街灯の数、ゆとりのある道幅、わずかな上り坂。地図ではわからない自分が大好きな街の雰囲気を感じて欲しかった。

「ちょっと電話します。」

そう言って電話を取り出したご主人は、午後のアポイントをキャンセルした。

「この物件でお世話になります。ただ、2つお願いしてもいいですか?」

仲介手数料の引き下げと住んでいるマンションの売却だった。私はご主人の申し出をできる限り受け入れることを約束した。丁寧な接客が手数料に値すると評価され、とても嬉しかった。



物件の引渡しが終わり、しばらくしてマンションの買い手も見つかった。「お祝いしなくちゃ!」というお客様からのお誘いで、桜の散り始めた頃に私は新居での食事会に招かれた。

19時から始まった新居での食事会は、お互いに気取ることもなく明るい話が尽きなかった。お子様たちと身重な奥様が眠りにつき男二人だけになった21時過ぎ、少し酔いがまわったご主人は急に面持ちを変え、真剣な顔になって私に話しはじめた。

「新しい家に引っ越しして、うれしかったんだけどさぁ。1か月くらいして“失敗した!”と思ったんだよ。」

“うれしいけど失敗・・・”

私に何か落ち度があったのかと戸惑った。不安を取り除くためにスーパーまでの道のりや小学校までの通学路を一緒に歩き、ひとつひとつ潰してきたつもりだった。

「上のふたりの子供たちがね、学校に行きたくないって言い出してさぁ。」

3学期の始業と同時に新しい学校へ転校したことで、それまでの友だちとの別れと新しい友だちができないことの寂しさ、環境の変化についていけなかったのが要因だった。さらに5人目を身籠っていた奥様にストレスをかけまいとするご主人は、4人の子供たちのストレスの多くをひとりで受け止めた。



「でもさぁ、子供ってすごいよ。自分たちで乗り越えたんだもん。」

新居は15棟ほどの分譲物件で、その敷地内にはコミュニティスペースのような小さな公園があった。分譲物件に引っ越してきた新しい家族の中には、学年は違えども同じように小学生の子供が数人いたという。同じように学校で馴染めないもの同士がその小さな公園に集まり、ひとりふたりと仲間を増やしていった。

「学年も性別も違うのにさぁ、いっしょに通学してんだよ。あんなに泣きごと言ってたのに。楽しそうに学校に行く子供たちを見てたら、こっちが泣けてきたよ。」

子供たちの交流を見た大人たちがその和に加わっていったという。マンション時代よりはるかに近所付き合いがいいと語ったご主人の満足そうな笑顔と潤んだ瞳が全てを物語っていた。


お客様という枠を超えた


新居での食事会から一ヶ月後、5人目のお子様が無事に生まれたという電話をいただいた。私の中ではお客様という枠を超えた存在になっていたこともあり、心の底から祝福した。

ただの不動産営業に新しい家族の報告などするだろうか。はがき一枚、メール一回で済むことなのに声を弾ませながら伝えてくれたことがとても嬉しかった。

それから数年経ったが、今もその関係は続いている。