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2018-07-26 15:54:13
【泣ける住宅購入】琉球ガラスに込めた思いとお客様からいただいた最高のプレゼント
一週間で2万枚のポスティング。
ノルマを達成した直後、新人営業とお客様を襲った空虚。
店長のひと言で未来が開いたお客様と新人営業のお話




新人の私が自慢できることは、学生時代にアメフトで鍛え上げた体力だ。口下手な私は闘争心を前面に出すプレースタイルでチームを引っ張り、キャプテンを任された。

社会人になって自慢の体力は活きている。積極的に声をかけることを店長から学び、苦手だったお客様との会話も徐々に慣れた。そんな頃、店長からポスティングの意味や大切さを教えて貰った。

「一週間で2万枚のチラシをポスティングしたこともあったな。」

体育会系のノリが疼いた私は、憧れる先輩のプレーをマネしたように店長の行いを実践した。2日掛かりで2万枚をコピーし、平日は5千枚以上、土日は現場立会いの合間を縫ってポスティング。
木曜日に開始して翌週の月曜日にすべてを終えた充足感は、学生時代に味わったものに似ていた。ただ、2万枚のポスティングを終えたに過ぎない。成約で評価されるのが仕事だ。そう自分に言い聞かせ、ポスティングの問い合わせを期待して2日間の休日に入った。



疲労が徐々に回復すると並行して“問い合わせは入るのだろうか”という不安が大きくなっていった休日を過ごし、休み明けの木曜日に出社して行ったことはポスティングした物件の確認だ。午前10時、売主に状況確認の電話を入れた。

「あの物件?昨日、他所から申し込みが入りましたよ。」

今までの努力が道半ばで終わりを迎えたことに呆然とし、1秒ごとに虚しさが増した。その1時間後、虚無に覆われていた私を電話の呼び出し音が我に返した。よりにもよってポスティングの問い合わせだった。
何とも言えない悔しさを堪えながら、わずか1日の差で決まってしまった事実を伝えた。

「あぁ・・・。」

急に力の抜けた女性の声に心苦しくなった私は、複雑な感情を抑えてお礼と謝罪を伝えて静かに電話を切った。

すると、その様子を伺っていた店長から声がかかった。

「チラシの物件はなくなったけど、同じような条件の物件なら見つけられるだろ?もう一度、電話してごらん。」

店長に促され電話をすると、お客様は連絡先や条件などを教えてくれた。その日のうちに物件資料をお届けする約束をして電話を切ると夢中で物件を探し、夕方にはお客様のご自宅へ資料を届けに向かった。



隣県との境に近い団地の一室で、やや年配の女性が迎えてくれた。そこに社会人2年目の息子さんとふたりで暮らしているが、世帯年収の超過により退去を求められ家探しをはじめたという。
物件資料を手渡した翌日、ふたつの物件を見学させて欲しいと連絡が入り、週末の物件見学には、女性と色白で物静かそうな息子さんがやってきた。

おふたりを後部座席に乗せ、助手席に座る店長のナビゲーションに従って車を走らせた。店長は私に道順を指示すると、後部座席に座るお客様に声をかけ続けた。駅からの距離、周辺環境といった物件情報を紹介するだけでなく、プライベートの内容にも触れたお客様との会話は、コミュニケーションとはこうするものだと私に向けて実践しているようだった。

2軒見学したお客様は一方の4LDKの中古物件を気に入り、申し込みの話になった。ところが、見学のみと思い込んでいた私は、申し込みやローンの事前審査に必要な書類を持ってこないミスを犯してしまった。すると店長は、自分たちの店に戻るよりも近い場所にある支店に電話を入れ、そこへ向かうよう私に指示した。

機転を利かした店長の判断で、タイミングを逃すことなく契約へと話は進んでいった。



心配していたローン審査を終えると安心したお客様は、私との会話も明るいものになった。

「息子が無口で何も話してくれないの。」
「あなたは彼女いるの?」
「素敵な上司に恵まれましたね。」
「ガーデニングをはじめてみようと思うの。」
「最近、体調がとってもいいんです。」

最初の訪問した時にお客様自身は持病の検査を毎月受けていると打ち明けてくれた。心配していたが、良好な状態が続いているようで私は安心した。



心のこもったプレゼント


引き渡しから1ヶ月後、私は郷土から取り寄せた琉球ガラスを手土産に新居を訪ねた。

“ずっと元気でいて欲しいお母さんにはオレンジのグラス”
“お母さんを思いやり、仕事に真面目な息子さんにはブルーのグラス”

そのことをお母さんに伝えていると、外出する間際の息子さんが“ありがとうございました”と声をかけてくれた。

「言葉は少ないけど喜んでいます。責任感が芽生え、仕事も以前より頑張っているみたい。何よりも顔つきが明るくなりました。本当にいい家を紹介してくれて、ありがとうございます。」

息子さんを見送ったあと聞かせてくれたお母さんの言葉は、この仕事に就いたことが間違っていなかったと確信させてくれる最高のプレゼントだった。