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2018-05-25 11:48:00
【泣ける住宅購入】お客様はダイバーシティ。物件選びもダイバーシティ。
気難しそうにジリジリと商談するお客様。
過去を明かそうとしないお客様。絵に描いたようなアットホームなお客様。
同じタイミングで3組を接客したからこそ学ぶことがあった営業の話




不動産仲介の仕事には、もう10年以上携わっていて、たくさんのお客様に出会ってきた。
その中で最も記憶に残っているのが、ほぼ同時期に3組のお客様から物件を購入していただいたことだ。

決して同時に3組の成約という輝かしい結果を誇りたいのではなく、探し求める物件と不動産仲介の営業への要求が三者三様で、それぞれ突出した何かを感じたからだ。


事務機器や光学機器を製造する一流企業に勤める50代の営業マンのご主人。最初に会った時の印象は、一流企業に勤めるオーラや貫禄を感じさせた。

“社会的信用もあり、住宅ローンもおそらく問題ない。きっとすぐにご契約いただけるはず。”

そう思ったのは、駅から徒歩5分の希望物件を見つけたところまでだった。
父の威厳を見せつけたかったのだろうか。あるいは、仕事とはこういう風に進めるんだともうすぐ社会人になる年頃のお子様たちや若い営業マンの私に言いたかったのだろうか。
ご主人は沈着冷静かつ理詰めで私との商談に臨んできた。それは、15分で終わる話が2時間になったり、1時間と掛からない引き渡し前のチェックに8時間を要したりすることもあった。

しびれを切らしそうになったことを今もはっきり覚えている。私は、この商談で“耐え忍ぶ”という営業の経験値を得た。


2組目は、立地優先で外壁や内装などのデザインやカラーを変更できる半注文住宅を契約していただいたお客様。
駅から近く滅多に出ないプレミア物件だったが、最高とは言えない日当たりと十分とは言えない広さが要因となり、問い合わせも少なく、売り出し当初の価格から値引きされていた。そんな日の目を浴びなかった物件にお客様から問い合わせが入った。

「全く気にならない。十分だよ。」

その物件を見学したお客様は、室内の広さや間取り、日当たり具合を確認するとそう言った。その言葉を耳にした時、私は“ようやく買い手が見つかった”と意気込んだことをはっきりと覚えている。

ところが1組目と同じように、契約を前にして躓いた。事前に確認したアンケートでは、借り入れはないという回答を得ていた。
しかし、契約直前に他にも借り入れがあることをお客様は明かした。このお客様の場合は、たまたま他の金融機関へ申請すると住宅ローンを組むことができたのだが、事実を突き付けられたお客様は、きっと素直に打ち明けておけばと後悔したかもしれない。
また、過去を包み隠さずに話せる信頼関係を作れなかった私にも原因があったのかもしれない。


3組目は、現地販売会に小さな女の子の手を引いてご夫婦がやってきた。ただ、予算の都合で他の物件を紹介せざるをえなかった。いくつかの物件の中からお客様が選んだ物件は、他のお客様ならば選ばないであろう“決め手の少ない物件”だった。
私道から少し入った場所に位置するすでに完成された建売物件は、建築面積いっぱいに建てられ、コンパクトカーすら楽に駐車できるスペースがなかった。

「うちにはこれで十分です。」

見学しながら満足そうに語ったご主人と、その横でご主人の方を見つめながらコクリとうなずく奥様に、私は幸せそうな円満家庭を垣間見た。

お客様は、新居への憧れや夢だけでなく、ライフデザインをしっかりと描いていた。
数年先には小学校へ通う女の子のことを考えて同じ学区内で物件を探し、35年の長期固定金利住宅ローンを20年で返済するよう“自分に合ったローン”をきちんと計画されていた。それは華やかさや目先の好条件を追い求めるのではなく、しっかりと地に足のついた将来の安定や安心を見据えていた。

そんなお客様に最善を尽くしたいと思っていたある日、私は売主へ価格交渉を行った。それはお客様の求めに応じたものではなく、気付いたらしていた自発的なものだった。販売手数料にも関わるものだが、その時だけはなぜかお客様のために動いていた。

“こんなアットホームな家族に住んでもらいたい・・・”

心からそう思えたのは、その時がはじめてだった。



3組のお客様からいろんなことを学んだ



ほぼ同じ時期に、いろんなお客様と出会えたことが、それぞれの印象をより深くさせたのかもしれない。
人の数だけ多様性に富んでいるのは当然で、それぞれに向き合うことができたのは貴重な経験だった。

「また来てね!」

引き渡し後のあいさつで訪ねた帰り際、ほっこりする言葉をかけてきた3組目の小さな女の子。新しい赤のランドセルを自分の部屋からうれしそうに持ってきた姿が今も忘れられない。